煉瓦研究ネットワーク東京 フィールドワーク10 上野・荒川編3
前回ご紹介させて頂いた1号館が次の写真である。
この1号館の後ろに立つ3階建ての煉瓦の建物が2号館である。
2号館は1号館に遅れること6年、1886年(明治19年)に東京図書館書籍閲覧所として建てられた。
設計は、アメリカ留学から帰国した小島憲之で、3階部分の窓には丸窓が用いられていて、アメリカ風の外観となっている。
この建物の入り口は、『さすが芸大!!』と思わせる素敵なものだ。
さらにこの入り口の左右には狛犬が配されている。
『狛犬』をみるとついつい露光間ズームで遊んでしまう悪い癖が出てしまった(^^;
実は1号館と2号館は渡り廊下で結ばれていたが、現在は屋根が取り払われている。次の写真は、左が1号館、右が2号館だ。
さてここまでの写真を見て、この二つの建物を比較してお気づきのことは無いだろうか!?
写真では難しいものと思われるが、使われている煉瓦の色合いが違うのである。
1号館の煉瓦の色は、やや白っぽく明るい色であるのに対して、2号館の煉瓦の色は、やや深みのある煉瓦色であることに気づかれたことと思う。煉瓦の色は、一般的に次の要素により決まる。
1.原料となる粘土の成分
2.焼成方法
3.焼成温度
それではこの三要素により、どのような違いが出てくるのだろうか。
1.成分の違い
原料に鉄分の多い粘土で焼くと、赤っぽくなる。
耐火煉瓦は、耐熱性を上げるため鉄分の少ない粘土で焼かれることから、白っぽく肌色に近い色合いになる。
2.焼成方法
煉瓦を焼くときに、十分に酸素を供給しながら焼くと赤っぽくなり、酸素の供給を少なくして燻しながら焼くと、炭素が多く付着して黒っぽくなる。
屋根瓦は、炭素を多く取り入れて高い強度を出すために燻しながら焼くことから、黒くなる。
3.焼成温度
高い温度で、しっかり焼き締めることにより赤の深みは増し、赤黒くなる。煉瓦を焼くときに、釜の中に置いた位置などにより、意図せずに部分的に焼き締められて赤黒くなることがある。
小口が焼き締められて赤黒くなった煉瓦を『鼻黒』、長手が赤黒くなった煉瓦を『横黒』、隣り合う小口と長手が焼き閉められた煉瓦を『矩黒(カネグロ)』と呼ぶ。
焼き過ぎた煉瓦を『過焼煉瓦』とも呼び、撥水性が高いことから水周りに使われることが多い。
以上の点をふまえると、色合いの異なる要因の一つとして、1号館の作られた1880年(明治13年)当時、日本の煉瓦を焼く技術が未発達で、十分な温度でしっかり焼くことが出来なかったため白っぽい煉瓦色となり、その後数年で技術が大きく進歩して、高温でしっかり焼くことが出来るようになったことから、深みのある赤色に仕上がったのではないかと考える。
今後改めてご紹介させていただくが、今回のフィールドワークで訪れた荒川区の佐藤病院に残る煉瓦塀をみると、焼成温度による色合いの違いがよく判る。
煉瓦塀の表側に横黒と、鼻黒の黒くなった部分を使って黒っぽく仕上げていることから、表と裏では風合いはまったく異なる。